◆ デジタル一眼レフカメラの動画機能は作品制作に向くのか?その期待点と問題点
NikonのD90に続きCanonのEOS 5D Mark IIにまで搭載された動画撮影機能。
これらはメモ的なおまけ機能としてではなく「作品」作りに使えるのでしょうか?写真を趣味として映像制作を仕事としている私なりにその期待点と問題点を探ってみたいと思います。
★静止画用カメラで動画を撮る際の数々の問題点
■レンズの構造上の問題
まずは先に主な問題点を整理してみたいと思います。
写真用のカメラ(スチルカメラ)には動画を撮るには向かない構造上の問題点が数多く存在しています。スチルカメラとビデオカメラが「別物」と言われる由縁はそこにあります。
まずはレンズの構造。直線ズームなんてもっての外ですが、通常のリングズームでも動きが滑らかでなく、段階的に引っ掛かるような動作をするレンズも多くあります。
静止画の撮影であればさほど気にならないそうしたズームリングの動作が映像では大きなクオリティの差につながってしまします。
ズーミングした際に大きく全長が変わるものもバランスを崩しやすいので動画用としては不向きであると言えます。
またレンズによってはズーミングした際にピントがずれるものもあります。
これは静止画であれば「使い勝手が悪い」程度で済みますが、動画撮影では致命的な問題となり、そのレンズを使用する以上はズーミングはほぼ不可能に近くなります。
もちろんピント機構にも同じような問題はあります。
一つはズームリングと同じようにリング自体が「滑らかに動くか?」と言う問題ですが、もっと重要なのは「AFの際にも滑らかに動くか?」というポイント。
これは静止画用のレンズが「とにかく早く被写体にピントを合わせる」ことを目的に作られていて、初動や収束が唐突で滑らかでないもの(モーター)も多いと言うこと。
それにハンチング(ピントの迷い)が出た時も「とにかく早く合わそう」と急激に細かく動くので、それが起きた映像は使い物にならないかも知れません。
■カメラボディの構造上の問題
また、カメラのグリップと言うか形状そのものにも操作上の問題があります。
ビデオカメラの場合、通常は右手のみ(ショルダータイプのものは右手と右肩)でボディ(重心の)中央を支え、左手はフリーにしてレンズのズーミングやフォーカス操作などをリアルタイムに行いやすくなっています。
しかしデジタル一眼レフの場合は明らかに重心が前に傾いてしまっていて、撮影時には右手は勿論のこと左手でも「グリップ」してカメラを安定させるのが基本です。
試しに少し長めのレンズを付けて右手のみでグリップし、ズーミングやピント合わせを行ってみて下さい。明らかに不安定で大きなブレを作り出す要因になります。
こうのようなレンズとボディの構造上、パンやティルトとズーミング、フォーカシングを同時に行うと言うのは手持ち撮影時は言うに及ばず三脚使用時でも難しいのです。
静止画撮影時にはそれらを同時に、しかもリアルタイムで「安定して滑らかに」行う必要はありませんが動画撮影時にはそれが重要なポイントになるのです。
■撮像素子の問題点
通常、高価格と言うか高機能なビデオカメラには3CCDや3CMOSといった所謂「3板式」と呼ばれる構造が組み込まれています。
これは何のか?
それを説明するためにはまず撮像素子がどのように色情報を得ているのかを説明しなければならないのですが、実は素子の1つ1つはRGBの3色を読み取ることができません。
スチル用デジタルカメラの撮像素子の多くがR(赤)を読み取る素子とG(緑)を読み取る素子、そしてB(青)を読み取る素子が隣りあって配列され(これをベイヤー配列と呼びます)それぞれの情報を画像処理エンジンなどが解析してそのピクセルの色(RGBそれぞれの値)を「推測」して決定しているのです。
つまりRの画素があるピクセルの色のうちR以外のGとBの数値は推測値なのです。
これに対してビデオカメラの3板式は、プリズムなどで分光してRGBそれぞれの値を読み取り、1ピクセルに対してRGB全ての情報を集計して数値化します。
一般的に高画素になるほどベイヤー配列のデメリット(色再現性の悪さなど)は少なくなると言われていますが、ハイビジョンになった今も3板式が主流なところを見ると多画素でもそのメリットは大きいと言うのが実際のところのようです。
動画はフルハイビジョンでも1920×1080ピクセルの計2,073,600ピクセル(約200万画素)しかないので、静止画よりも1画素1画素を大切に扱っていると言ったら良いでしょうか。
EOS 5D Mark IIなどのように2,110万画素もあるカメラの場合GGRBで配列される4画素を1画素と受け止めても問題ない解像度なのでこの問題はあまり多く出ないかも知れませんが、それは逆に像面サイズに対して無駄な画素が多いと言うことでもありますからその分のデメリットは受けることになります。
走査方式も違います。もともとプログレッシブの写真用カメラでインターレースの撮影ができるのかどうか?この辺りは品質も含めて今後の課題でしょう。
■連続駆動の問題
さらに連続駆動という問題があります。もともとスチルカメラの撮像素子(と画像処理エンジンなど)は長時間連続して駆動することを目的としてきませんでした。
ライブビューで常時使用することすらデジタル一眼レフの撮像素子は想定されていないと言うか、今でも実際は厳しい使用環境になると思います。
それでも常時ライブビューを使用していたとしても連続して使用するのは数分と言った所です。それが済めば一度通電を止めて冷却に入れます。
しかし動画撮影をビデオカメラと同等に行うことを考えると、1時間や2時間は連続駆動できなければ使い物になりません。もちろん画像処理エンジンも。
EOS 5D Mark IIでは連続12分、D90に至っては5分と言う時間制限がありますが、どちらも現状では厳しいと言わざるを得ません。
その原因が撮像素子や処理エンジンの蓄熱によるもののか、処理速度やメモリー容量によるものなのかは不明ですが、とにかく長時間の連続駆動はできません。
実際に映像制作をしていて「1カットで12分以上」などと言う長尺は滅多に使うものではありませんが、撮影時には話は別です。
ドラマや映画のように1カットの長さを予め決めておいて1テイク1テイク撮って行くのであれば良いかも知れませんが、自然を相手にしたり、カメラ慣れしていない人のインタヴューを撮ったりする場合は長時間回しっぱなしの時も多くあります。
作品制作の素材として使う映像を撮影する際の自由度としては連続撮影時間も重要な要素になるので、現状の短時間では使用シーンはある程度制限があるでしょう。
もちろん消費電力とバッテリーのバランスも重要になりますが。
■周辺機器の問題
三脚やマイクなどの周辺機器にも問題が山積しています。
ビデオライトなどの補助光源やガンマイクなどの外部マイク、これらを使用できるのかという点については、アクセサリーシューのサイズはほぼ同じなのでここに「装着」することは可能なものが多いと思います。
しかしマイク端子などはステレオミニジャックなどしか装備されておらず(D90はそれすらありません)、キャノン端子(XLRコネクター)を使う業務用の高性能なマイクは使用できません。厳密に言えばプラグ変換すれば繋げるのですが、ビデオ用の業務用マイクはファンタム電源供給のコンデンサーマイクが主流で、その電源をどこから取るかが問題になります。
電池式のものなら変換アダプターを介せば使えると言うことになります。
もちろんアクセサリーシューの通信端子は使用できないので、一部の民生用ビデオカメラで可能なズームに連動した指方向性の変化なんて言うのも現時点では使えません。
■三脚の問題
そして三脚の問題は最も重要なポイントです。
家電屋さんなどで家庭用ビデオカメラを購入した時におまけで付けてくれる三脚はカメラ用のものと同じ(と言うか多くの場合カメラ用のもの)なので意識していない人も多いのですが、動画撮影用の三脚と静止画撮影用の三脚は脚から雲台まで根本的に違います。
よく記者会見などのシーンでTV局のカメラの三脚が脚1本が2本に分かれた構造になっているものを見かけると思います。写真用の三脚では見かけない構造です。
これはパン(横方向の回転)をする時に三脚の脚に捻じれが起こらないように、安定してパンニングが行えるようにとこのような構造になっているのです。
静止画を撮影する場合はカメラを横に振っても、最終的に撮影するアングルで「安定」していれば問題ありませんが、動画の場合はカメラを横に振っている最中も「安定」し続けなければならないのでこうした構造の脚を採用したものが多いのです。
雲台についても全くの別物です。
写真用の雲台のように「ある一点で」微動だにせずシッカリと「固定」できることを最優先に考えられた雲台とは違い、パンニングやティルティング中にも「全域で」ひっかかることなく「滑らかに動く」ことを最優先に考えられています。
パン棒の長さ一つをとってみてもその違いは明らかです。
素早く操作でき「取り回しやすい」ことを優先に考えられた写真用雲台のパン棒は比較的短く作られており、滑らかに「動かす」ことを重視して作られた動画用雲台のパン棒はかなり長く作られている場合が多くなります。
雲台自体の構造もカッチリとしたメカニカルな写真用雲台に対して、オイルなどの高粘性流体を使って滑らかに動くように作られています。
脚を複数持ち歩くのは大変かも知れませんが、雲台だけは動画用のものを持っておかなければ「作品」として動画を撮影するのは難しいでしょう。
スチルカメラでは明るい環境下で高速シャッターが切れる場合などには三脚の必要性が低いのですが、ビデオカメラの場合にはそうは行きません。
例えば50mmのレンズで1/4,000秒で撮影した場合、静止画では三脚を使用した場合と手持ちで撮影した場合の画像の区別はほとんどつかないと思いますが、ビデオカメラではどんなに明るい環境下でも「常に撮影」しているわけですから、数千分の1秒にブレが出ていなければ良いという問題ではなく、光源状態に限らず常に三脚の必要性が高くなります。
それだけに三脚+雲台の問題はカメラのボディやレンズ以上に大きな問題なのです。
マンフロットなどではカメラ用三脚にビデオ用のボールレベラー(素早く水平出しが行える装置)と動画用雲台を付けられるものもあるので、そうした装備が必要になるかも知れません。
■記録方式とメディアの問題
記録方式はD90が1280×720ピクセル秒間24コマのプログレッシブ映像をMotion JPEGで、EOS 5D Mark IIが1920×1080ピクセルのフルHD映像をH.264で撮影できます。
D90のMotion JPEGはハッキリ言って「作品用」としては使い物になりません。
「1コマ単位で編集できる」なんて言う人もいますが、それ以前に圧縮効率の悪さからくるノイズなどが致命的で、実際に映像用カメラでMotion JPEGを使っているものは皆無だと言う事実を見てもいかに実用的でないのかと言うことが分かります。
映像屋として見ても、1コマ単位で何かをしなければいけないのは特殊なモーショングラフィックでも使う時で、それ以外の場合は1コマ1コマが独立したデータ構造になっている事よりも全体のクオリティが高いことの方が重要です。
その点でH.264は優れた圧縮効率を持っていますが、最も高画質となるものは各社のフルHDビデオカメラで16Mbps前後です。
これは8GBのメモリーカードでも55分しか撮れないデータ量。HDVなど編集性の良いフォーマットでは1,440×1080でも25Mbpsが必要になりますから、さらに圧縮効率の良いコーデックの開発実装と大容量メモリーカードの低価格が進まないと、民生用でしかも「作品」も撮れるカメラとしては辛い状況にあるのも事実です。
★それでも使いたい。これからの期待点
■餅は餅屋、スチルはスチル、ビデオはビデオ
最初に断っておけば、私は一眼レフに動画機能を付けるのには反対です。
逆にビデオカメラに静止画撮影機能が付くことにも反対です。
私が使っている業務用の(厳密にはそれに近い)ビデオカメラは静止画の撮影はできるものの、それは映像解像度(SDなら30万画素、HDでも200万画素程度)を超えるものではなく、つまり「動画の中に」表現の一部として静止した画像が欲しい時に使うための機能であって、プリント写真を作るための機能ではありません。
とにかく「餅は餅屋、スチルはスチル、ビデオはビデオ」なのです。
家庭用ビデオカメラなどは本職である「動画」の画質を犠牲にしてまで高画素の撮像素子を用いて静止画撮影機能を付けているものまであります。
SDムービーなら本来30万画素しか必要ないのに1/6型などという極小サイズの撮像素子に500万画素とか、狂気の沙汰としか思えません。
それに比べればスチルカメラに動画撮影機能が付くのは可愛いものかも知れませんが、それにしてもそうした事に開発の資金や人員が僅かでも割かれることが嫌なのです。コンパクトカメラならいざ知らず一眼レフというカメラには「写真を撮る」という目的のための「純粋な道具」であって欲しいのです。
ボルトを締めるスパナはスパナで良いのです。ネジを締めるドライバーが一緒にくっ付いていたからと言ってなにも嬉しい事はありません。使い辛いだけです。
しかしそれでもいい点はあります。
■映画用カメラよりも大きな像面
映画に使われる35mmフィルムを横(映画は縦方向)に使い、およそ2コマ分の面積を使用したカメラをライツ社(ライツ社のカメラがライカね)が作り、ライカ判と呼ばれる写真用35mmフィルムが定着して長い時が経ちますが、その横向きにしたサイズがまた映像用に使われると言う何とも面白い事態になりました。
因みに「35mmフルサイズなのに像面が24mm×36mmってどういうこと?」と疑問を持たれた方もいるかも知れませんが、「35mm」というのは映画用フィルムの規格からきている言葉で、実際の像面サイズは関係無いんですね。たまたま横幅が36mmと35mmに近かっただけ。
映画用35mmフィルムの像面は24mm×12mmだったと記憶しているので、EOS 5D Mark IIの場合は像面積にすると3倍の面積を持つ映像用カメラができたことになります。
APS-CサイズのD90でも23.6×15.8mmと同等以上。
では像面が大きいと何が良いのか?、これにはメリットばかりではなく問題も多いのですが、メリットの一つとして「同じ画角、同じ絞り値でも大きなボケを得られる」という点、要するに被写界深度の浅い画像を得やすいと言うメリットがあるわけで、これは映画用カメラでもできなかった大きなボケ表現を楽しめる可能性があると言うことです。
■多彩なレンズシステム
また像面とは関係ありませんがレンズシステムを多彩に選べると言うメリットもあります。
例えば単焦点のレンズは業務用でもビデオカメラ用のレンズでは中々見かけません。
魚眼レンズなどはコンバージョンレンズなどがあるので、一発物のインパクトを与えたいだけならやりようはいくらでもありますが、やはりスチル用のような単焦点で高画質のものをと考えると選択肢はありませんでした。
ひょっとしたら映画用システムなどのように何千万円という高価な物の中にはあるのかも知れませんが、少なくとも個人が簡単に手にできるような代物ではありません。
こうした単焦点レンズを使うと言うことにおいては前述のズーミングの問題も無くなります。それだけに表現幅も無くなると言うことですが、画質を取ると言うことならそれもありです。
10数mmの超広角レンズやマクロレンズ、シフトレンズといったレンズが使えるのも魅力ですね。
■将来的な展望に期待
上記のように現状では問題点が多過ぎてなかなか実用的とは言えないデジタル一眼レフカメラの動画機能ですが、今後の発展には期待が持てます。
一つは一般的なレンズ交換式ビデオカメラが安いものでも50万円以上することを考えれば、デジタル一眼レフの普及機はレンズ交換式でも10万円を切る価格帯であるということ。
このコストパフォーマンスにレンズシステムの自由度と言うことを考えると「一眼レフカメラ用マウントを使った動画用カメラ」と言うのは魅力的ではあります。
先に書いたように現状の「写真を撮るための一眼レフカメラ」とは別物としてと言うことですが。
撮像素子と言うのはカメラの中でもかなりのコスト割合を占めると思われるパーツで、例えば35mmフルサイズの3板式なんてのはいかに1枚の解像度が200万画素程度でも極端に高額な機材になってしまい現実的ではありませんが、動画撮影に重点を置いて(もちろんボディ形状も変えます)一眼レフカメラ用マウントを使った800万画素(4画素を1画素として捉えるって方式)の単板式フルHDビデオカメラなんていうのが出てきたら面白いかも知れませんね。
もう一つは動画撮影が可能なカメラが多く出回るようになると、レンズのズームリングやピントリングなども改善され、動画撮影にストレスのないものが出てくるであろうと言う点。
しかしこれは危険もはらんでいて、そのための開発がレンズ価格などに跳ね返ってくる可能性は大いにあります。価格は変わらなくてもその他の重要な部分(コーティングとか収差補正とか諸々)の開発速度が遅くなる可能性もあります。
映像屋としては期待の大きなジャンルですが、写真愛好家としては不安の大きなジャンルで、両方やっている私としては悩ましい部分です。
★結論として
私なりの結論としては、現状のデジタル一眼レフの動画機能は「常用」できるようなレベルにはなく、
「色物的な使い方」がせいぜいと言うところですが、仮にこれがもっと進化して行って常用できる水準に達したとしても少なくとも中級機以上の一眼レフには動画機能は搭載しないで欲しいと言う点は変わりません。
中級機以上には「写真を撮る」と言うことのみに「純粋に」注力して欲しい。
しかしエントリーモデルでは実装していくのも良いでしょう。
そして将来的には「デジタル一眼レフカメラの動画機能」ではなく「一眼レフ用マウントを使用した低コストなレンズ交換式の動画撮影システム」を開発して行ってほしい。
今は過渡期として仕方がないのかも知れませんが「動画と静止画は似て非なるもの」。やはり餅は餅屋、スチルはスチル、ビデオはビデオとしっかりと住み分けてもらいたいです。
何度も言うようですが菜切り包丁で刺身をおろしても良い料理はできません。逆もまたしかり。全てができるカメラは何もできないカメラと同義です。
エントリーモデルや普及機ではそうした多彩さも「売る」ための要素として必要かも知れませんし、サブ機としては面白味もある。何より実際の市場で実験運用する場は必要でしょうから仕方ないかも知れませんが、「本気で写真が撮りたい、動画が撮りたい」と願うユーザーの多い中上級機には八方美人さはマイナス評価でしかありません。
各メーカーにはその辺りをよく考えて開発に臨んで欲しいですね。
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